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相続税と所得税の二重課税問題について考えてみる

2010 - 08/27 [Fri] - 00:59

 例の相続税と所得税の二重課税の話ですが、その後まだ具体的な手続や内容については国税庁の方から示されてはいません。この判決が出てからいろいろとあーでもない、こーでもないと無い知恵を絞りながら考えていますが、なかなか難しい話であるような気がしてきました。

 何が難しいのかと言えば、従来の課税に関する考えに基づけばそもそも二重課税の対象になる資産などほとんど無いと言うことですね。逆に言えば「よくこの年金保険金について二重課税されているということに気がついたな」と思うくらいなのです。というか、よくこんな判決が出たな、と言えるのです。

 しかしもう一方で今回の判例のように年金受給権が二重課税と言われるのであれば、逆にほとんどの相続財産について二重課税の問題が生じると考えられるのです。

 前者の考えは、まず相続税と所得税は全く課税目的が異なる別個の税金であると考えることがベースになります。その上で相続税を度外視して所得税だけに着目した場合に被相続人が所得税を負担するケースとその財産を引き継いだ相続人が負担する所得税の負担に差があってはならない、という思考が基本となります。

 そう考えますと相続財産を譲渡して譲渡所得を考える場合の取得費は、先代からの取得費を引き継がなければならないことが分かりますし、年金保険や著作権を相続で取得した際に相続人がその受取額の全額について所得税申告しなければならないという従来の課税の理屈が通ります。

 相続の発生前後で所得税の負担に差があるのはおかしい、という考えに基づくならばこれは当然の理屈となります。またこうすることで被相続人の生前に行われる恣意的な課税回避行為を未然に防ぐこともできます。

 相続税と所得税は別個の独立した税目なのですから、そもそも二重課税という概念が生じる余地はありえないわけです。これが従来の相続税と所得税の関係を的確に表現する考え方で、今までの全ての課税はこの考えがベースになっていました。

 一方で後者の考え、すなわち今回の判例に基づいて考えるのであれば相続税は先日の「譲渡所得税前納説」に基づいて相続税が課税されているのと同じような話になってきます。つまり年金受給権については相続発生時点で元本部分を受け取ったとみなして(所得税の代わりとしての)相続税課税がされているのだから、実際に年金を受け取る際にはその元本部分については所得税は非課税として取り扱うということになろうかと思います。

 つまり相続税を申告した時点で、その取得をした財産については課税関係が終了しているとみなす考え方ととることができます。従ってその後相続財産について所得税が課税されるのはその相続財産を元本として生じた果実についてのみ所得税を課税すべき、といっているように見えます。

 そして相続人が相続で取得したその元本の価額は相続税評価額によるべき、と言っているように読み取れます。そう読み取らなければ今回の年金保険の判例がおかしくなりますし、仮にこの判例の遺族(妻)が今後の保険金を一括受給する際には当然に相続税評価額部分を控除して一時所得が課税されることになるはずです。となりますとその他の不動産、有価証券等についても相続人は相続税評価額で取得をしたこととなるべきであって、従来のように先代の取得価額を引き継ぐことを否定しているようにも思えます。

 しかしこのように考えた場合、大きな問題を生じます。それはどういうことかといえば、世の中の95%の世帯は相続税が課税されていないため、相続税の申告を行わない多くの家庭では相続財産の譲渡所得を計算する際にはあらためて相続税評価額で取得価額を評価替えしなければならないという理屈になってくるわけです。でもそうするとそもそも相続税が取れない上に、従来と比較して譲渡所得税などでもの凄い取りっぱぐれが出てきちゃうんですね。

 これは課税技術上や税収面から見た場合どうなんでしょうか?相続で取得した不動産を譲渡する場合に、取得価額は相続発生時点の相続税評価額として譲渡所得を計算することになるのです。これは大変なことです。だって小規模宅地などを適用していた場合にはどの金額を取得価額とすべきなのでしょうか。ほとんどの世帯では相続税を申告しないわけですが、そういった世帯ではどこまでの精度で相続不動産の相続税評価額を評価すべきなのでしょうか?そこが固まらないとそもそもの譲渡所得額を計算することすらできません。

 うーん、そう考えていくと今回の判例に基づいて相続税と所得税の関係を考える場合、最悪全ての相続財産に関して所得税課税が発生した場合に影響が生じると考えることもできるのです。一方で今回の判例をもの凄く狭いものとして解釈した場合には、年金受給権という生前被相続人について課税関係が生じていなかった財産を契約に基づいて受領した場合についてのみ、相続税が課税された元本部分についてはそれ以降所得税は非課税となるという限定解釈を行うことも可能です。

 そもそも今回の判例の保険契約の場合、一時金として死亡保険金を受け取っていれば所得税はそもそも非課税ですからこんなややこしい話が出てくるはずもなかったんですね。この死亡保険金の非課税ということも今回の判例の解釈をややこしくしている原因でもあります。

 これはやっぱり考えれば考えるほど本当にややこしいです。今回の判例をその判例の示す意味だけを素直に受け取れば、従来の相続財産に関して行われた所得税課税は全て間違っている、と考えることができます。なぜなら相続税と所得税はある意味「資産税」として一体であり、一旦相続税が課税された資産については所得税を課することができないと考えることができるからです。

 しかしその判例に基づけば、従来の考え方である、相続税と所得税は全く課税目的の異なる別個の税金である、という考え方が根本から否定されることになります。別個の税金であるならば二重課税など生じる余地がないからです。言ってみれば不動産を取得した際に不動産取得税と固定資産税が課税されることとを二重課税として否定しているのと一緒です。

 この判例はもしかすると相続で取得したあらゆる財産に関する所得税に関して還付の余地があるということにつながる恐れもありますね。拡大解釈、というか今までの税務知識をクリアにして素直に今回の判例を読めばそう受け取らざるを得なくなります。だって「相続税申告において相続税評価額で計上した部分までの金額については、相続によって取得し、課税関係が終了したものと考える」という思考がベースでしょうから、それは当然不動産や株式についても同じ事が言えると言えます。

 もちろんバブルの頃に取得した不動産や株式などだと今回の判例に基づけば譲渡の際には従来は発生しなかった譲渡所得が生じる恐れはあります。ですからこのような判決が出たからと言って一概に納税者有利で還付ばかりが発生する事例になるとは言えなくなると思います。

 しかしそれより何より、こんな判例が出てしまうと過去の保険金による一時所得や相続財産の譲渡所得の申告を全て見直さなければならない可能性もあるわけですが、そんなことが現実問題として可能でしょうか?もしそういった所得税申告の全てに影響を与える判決であったとすると、これはもうめちゃくちゃな話になってきます。だって今までの全ての「常識」が間違っていたと言うことになるからです。

 そうやっていろいろと考えていきますと、今回の判例は果たして良かったのでしょうか?それともやはり本来は全ての相続財産について相続発生時点で取得価額の評価替えを行うことが正しかったのでしょうか?そんなことが課税技術上可能だったのでしょうか?理屈を考えていけば行くほど難しくディープな問題であることを思い知らされてしまいます。

 これから今回の判例に基づいて国税庁からいろいろな通達、解釈、実務指針などが公表されると思いますが、判例から考えればきっとどれも理屈が矛盾したものになってしまうでしょう。過去の事例や他の相続財産の課税との整合性が失われてしまうことが次々と明らかになってしまうでしょう。国税庁が本件について具体的に発表すればするほど自らの過去の課税や、相続税の取得費加算などの制度矛盾について首を絞めることにもなりかねません。

 とにかくどえらい判決が出てしまったものだと改めて思います。このような判決が出てしまうと、先祖代々の不動産を譲渡した場合の譲渡所得税に関する訴訟や還付請求が山のように出てくる恐れも十分あります。これは国税庁も迂闊な指針を発表できませんね。

 どうせならこれを機会に相続税制を完全にリセットしますか(笑)。でも民主党政権には無理かな(笑)。

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